インタビュー #創業支援

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「ノー」とは言わず、真剣に楽しむ!

自家製酵母パン HugPan

小林 里子さん

2020年5月29日

https://ameblo.jp/hugpan2007/

@hugpan2007

自宅パン教室、カフェでの製パン、マルシェ等での販売、出張ランチ

どんな内容で起業されていますか?

自宅でのパン教室や、「い菜やカフェ」というカフェでのパン作り・パン教室をしています。今年から、「LEARNING SPACE CANDLE」という大人や学生さん向けの自習室で、出張ランチも始めました。ランチでは、味噌や塩こうじなど、自家製の発酵食品を使った料理も作っています。
土曜日はマルシェなどに出店することが多く、気が付くと日曜は「月曜日の仕込みをしなきゃ」となっています。酵母パンなので、冬は12時間から15時間位、1次発酵に時間がかかり、そうした仕込みも逆算しながら1週間単位で計画を立てています。

パンを作り始めたきっかけについて教えてください。

13年前位、当時は大阪に住んでいたんですが、昔ながらのパンから超高級パンまで、関西にはパン屋さんが本当にたくさんあり、お財布が寂しくなりながらも、おなか一杯食べたいと食べ歩いていました。
そんな中、阪南市という、大阪と和歌山の県境にある自家製酵母パンのお店に行った際、お店の方から「瓶があれば酵母を育てられる」とお聞きし、瓶と自家製酵母のレシピ本を買って帰ったのがきっかけでした。
そこから独学でパン作りを始めました。今思うと失敗パンなんですが、家で焼いてみると焼きたてはとてもおいしくて、自分でもできる!と思ったんです。当時、ちょうどブログでも情報が集めやすくなっていたこともあり、パン業界のカリスマのような方たちのブログを一生懸命見ながらまねをして、本を買ってまた作って…、それを繰り返していたら色々なパンが焼けるようになりました。

パンのレッスンは、どのような流れで始まったのですか?

当時は夫婦2人だったので、あれこれパンを焼いても食べきれなくなり、夫にパンを職場に持って行ってもらったのですが、食べてくださった方から「おいしい、私も焼いてみたい」と言われて教えたのが最初でした。
転勤で引っ越すと知り合いはゼロになるんですが、10ヶ月位経つと何となく誰かに伝わり、誰かが家に来るような感じで、そのうち「小林さんのところでパンを習ってきて、おいしかった」という口コミが広がり、やりたいという方が増えてレッスンが始まる感じでした。看板を上げていたわけでもなく、当時はSNSもしておらず、「言われるからやる、お声がかかるから頑張る」、という状況でした。

発酵食品を作るようになったのは、きっかけがあったのですか?

以前は、2、3年おきに夫の転勤があったため専業主婦をしていたのですが、夫の両親が野菜農家で、私の父もお米や野菜を作っていたので、両方から野菜がどんどん届くんです。トマトが段ボール一杯、白菜が3玉、大根が5本など、冷蔵庫にも入りきれず、塩もみをして冷蔵庫に入れたり漬物やケチャップ、ジャムにするなど、何とか手作りしながらさばこうとするうちに段々と保存食が作れるようになりました。
皆しているだろうという感覚でそういったことを普通にしていたら、「お仕事として出してください」と言っていただけて、今の仕事に繋がってきたような感じです。

北九州で、今の仕事はどのように形になったのですか?

北九州に来たのは5年半前になります。夫が転職して転勤せずにすむようになったので、パートとして働くつもりでした。ですが、みんなから「あなたはそうじゃない」「自分で積み上げたところで勝負しないでどうするんだ」と言われ、腹をくくらないといけないのかなと思いながらも、10年以上何となく続いてはきたけれど、事業としてどうなのか、展望としてどうなのかが分からない状態でした。
そこで、北九州市が開催する「起業塾」に参加して自分の事業を振り返ってみて、「ここは上手くいっている、ここはダメ、ここは今からやれば何とかなる」、など気持ちの整理ができたように思います。
その頃、いつも行く近所の自家焙煎のコーヒーショップにコーヒー豆を買いに行った際、コーヒーショップの店長さんから、たまたま打ち合わせに来られていた「い菜やカフェ」のオーナーに、パンが焼けるということでご紹介いただいたんです。
下の子が4月から幼稚園に入るので何をしようかなと考えていたこともあり、本当によいタイミングで「い菜やカフェ」とのご縁がつながり、勢いもつきました。

「い菜やカフェ」との出会いを通じて、どのように事業が広がったんですか?

い菜やカフェにお声かけいただき、製パン担当のスタッフとして働き始めたんですが、い菜やカフェが開催する講座の中にパン教室があったらいいねという話になり、パンづくりの講座も始めました。そして、レッスンに来てくださった方のもっとやりたいという声を受けて、パンを焼きたい人が家に来るルーチンができ上がってきました。
また、い菜やカフェで私のパンランチを召し上がってくださった方が、おいしかったからとオーダーくださったり、レッスンに来てくださったり、イベントに買いに来てくださったりと、リピートでついてくださっているようなところもあります。

起業にあたり、苦労したことはありますか?

最初は、お金の管理をどうしたらよいのかが本当に分からなかったです。
ネットで材料を買ったらどうしたらよいのか、家の用品も一緒に買ってしまい、仕事と家の支払いをどう分けたらよいのか、自宅で教室をする場合、電気代は何割を教室用のお金として払ったらよいのかなど、全く分からない状況でした。
そこで昨年、北九州市の北九州産業学術推進機構(FAIS)という相談機関の税理士さんから、帳簿のつけ方やレシート、領収書の管理等についてしっかり教えていただき、今はきちんと確定申告できるよう心がけているところです。

起業してよかったことはどんなことですか?

雇われて働くこと以外イメージになかったのですが、これでもちゃんと仕事になって信用していただけて、また次のお仕事をいただきながら働けるというのは、単純によかったなと思っています。
また、自分と合わない人とはどうやっても仕事が続かないので、結局、気の合う人や私のことをいいなと思ってくださる方しか周りにいない状況で、人間関係に悩むこともなく、その方たちのためにできること全力でやろうと、ただ純粋に気持ちよく頑張れています。
仕事については、基本的にノーとは言わないようにしていました。パンの焼き方を教えてほしいと言われると、上の子が赤ちゃんの時でもおんぶしてお店に教えに行ったり、子連れで出張レッスンをしたこともありました。

仕事と家庭のバランスはいかがですか?

小4と年長の子どもがいますが、今年になって乳がんがみつかり手術をしました。術後は痛みもあり、薬を飲み始めるとめまいがしたり体調を予測できない状況になりました。そこで、上の子にはお米を研いで炊飯器にセットしたり、お風呂を洗ってお湯を沸かしたりなどもできるようになってもらい、子どもたちには「自分のことは自分でする」というのを徹底しました。荷物の準備から上靴洗いまで、全部自分たちでやってもらっています。「できないことや困っていることがあれば声をかけて」とは伝えていますが、考える力がつくよう、先回りして声をかけることは意識的にしなくなりました。
また、17時半ごろ仕事が終わって下の子を幼稚園から連れて帰り、「ご飯もお風呂も準備できていない、洗濯物はベランダ、下の子は20時に眠くなるので、あと2時間半」という状況のときもありました。子どもたちには、「今から3人で全力で頑張らないとご飯も出てこないしお風呂も入れないし、8時には寝れないよ」と言いきかせ、一緒に頑張ってもらって乗り切った日もありました。家族がいかに応援してくれるかというのは本当に重要だと思っています。
あとは、買物にメモを持っていけるよう、「お買物メモ」を活用しています。「これはいるな」と思ったらぱっと書き込めるよう台所にメモ帳を置いておいて、子どもたちにも書いておいてもらっています。折り紙やおやつ、ノートの行数などの規定、シスコーンのバニラ味など細かい種類のオーダーまで、何でも自分たちで書いてもらっています。

起業を考える女性にメッセージをお願いします。

「ノーとは言わないこと」、あとは「真剣に楽しむこと」でしょうか。頑張るではなくて、「いかに真剣に楽しむか」が大事だと思っています。
イベント出店の場合、体力的には大変ですが、「あぁ疲れた、きつかったな」で終わってしまうと辛いですし、他の出店者さんたちといかに助け合って楽しく過ごせるか、そういう楽しい雰囲気を作らないと、来てくださった方もまた来ようと思っていただけないと思っています。楽しそうなところには人が寄ってくるし、人が寄ってくると、また新しい仕事ができたり次の仕事に繋がったりもするので、真剣に楽しむことが大事だなと思います。
あとは「自分の体に気を付ける」こと。これまでは、自分の体力や気力の限界もわからず、いただける仕事はやれるだけ全部やってみようという感じで走ってきました。ですが、乳がんが見つかりお休みをいただく中、まずスケジュール帳に先に書かないといけないのは、病院に薬をもらいに通院する日だなと実感しました。仕事がうまくいきだすと、先に仕事の予定を入れてしまい自分が後回しになりがちですが、休まなければ働くこともできないので、体のメンテナンスをする日はきっちり先に入れておくようにしています。
それから、やはり勉強する時間も必要だなと感じています。講師として話をすると、アウトプットが多すぎてものすごく枯渇する感じがあるんです。レッスンに繰り返し来てくださる方もいらっしゃるので、本を読んで新しいネタを仕込んだり語彙を増やしたり、お役に立てる話ができるようにしています。また、ランチを作るには、何かしら考える基幹となるものがないとメニューが組み立てられないと思い、薬膳の勉強も始めました。
スケジュールが埋まり始めるまでは、いただいた仕事をがむしゃらに全力でやるしかないのかもしれませんが、自分のメンテナンスが後手に回るようになったら、少しストップして、お断りする勇気も持ちながら時間調整の仕方を考えた方がよいかなと思います。

趣味・健康管理・ストレス解消法など

乳がんになって変えたことといえば、とにかく寝ることです。下の子が8時半には寝るので、下の子に本を読んで寝かしつけたら、「本日もお母さんのご利用ありがとうございました、閉店いたします。また明日のご利用お待ちしております」と言って、早ければ9時頃本当に寝ています。
疲れがたまると手術側の腕が痛くなってしまうのですが、作業をすると握力もいるし重たい物も持つので、回復する時間を取らないと肉体労働に耐えられないんです。洗濯物が干されてなかったら夫に、洗濯物がたたまれてなかったら娘に頼んで寝ています。

(2020.12.21)
(平成30年度北九州市女性起業塾参加)